適切なアンカー設置

  1. はじめに
  2. 作業手順
  3. 作業現場の調査
  4. 使用台付ワイヤーロープ張力の決定
  5. アンカー設置部の調査
  6. アンカー方法の選択
  7. 生立木によるアンカー
  8. 埋込みアンカー
  9. コンクリートアンカー
  10. ロックボルト使用アンカー
  11. 重量置換えアンカー
  12. アンカー引張試験


1. はじめに

高所法面の無足場工法は、斜面上部に設置したアンカーと作業機体をワイヤーで接続することによって、充分な安全を確保してから斜面上で作業を行うというものです。ですから、アンカーは斜面上ので作業中の機体を確実に保持できることが必須条件です。

アンカーの設置

機械を支えるアンカーの設置については、現場全体および設置部周辺の傾斜角、工事の規模、施工期間などを考慮にいれて、次の5種類の中から選択します。


この中で最も多く用いられているのが生立木によるアンカーです。
また、アンカーは必ず2カ所設置します。これは作業機械にウィンチを2基搭載しているためです。

アンカーの強度

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2. 作業手順

適切なアンカーを設置するためには、作業条件、地盤条件、アンカー耐力などを十分に考慮する必要があります。作業手順は下の図に示した通りです。

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3. 作業現場の調査

  1. 大きく傾斜した斜面においても作業が出来るように、斜面上部の推定崩落線上より奥に十分な強度を持ったアンカーを設置する必要があります。

    一般的に斜面の崩壊は、斜面の剪断保持力(せんだんほじりょく)が斜面の自重に耐えられなくなった時に発生します。
    通常は斜面から 3~5 m の浅い層(表層)で発生することが多く、これを「推定崩落線」としました。この場合の「推定崩落線上より奥」とは、斜面角部から「推定崩落線」までの距離を数倍(最低でも10 m)した位置よりも奥を指します。

  2. A. 地質の把握
  3. まず、大切なのが施工する現場の地質を把握することです。
  4. 主なポイントをは3つ。

  1. ①地質が土、砂、砂利、赤土、砂岩、花崗岩、あるいは複数の石や岩が混じり合っているかを確認。
  2. ②乾燥した地質なのか、水分を多く含んでいる地質なのかを確認。
  3. ③作業面の地質の粒度、そして水分を多く含んでいるかを確認。

  1. 地質によってはアンカーおよびワイヤーロープに加わる張力の負担が大きくなるため、アンカー設置時に考慮する必要があります。また、現場周辺の状況に崩落跡や湧き水がある場合は、特に地質の耐力が弱くなっているので注意が必要です。

  2. B. 斜面の程度
  1. 作業面が斜面下部からどのようなスロープを描いているかを確認します。
  2. 斜面角度によりアンカーおよびワイヤーロープに加わる張力の負担を十分考慮します。


C. 斜面上の障害物の把握

  1. 作業面にある障害物、岩の突起、段差等について、大小に関わらず位置を十分把握しておくことで、
  2. ワイヤーロープとの干渉が生じる恐れがないことを確認します。

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4. ワイヤーロープ張力の決定

A. ワイヤーロープの安全率

ワイヤーロープの安全性も、この工法の大切なポイントです。安全を示す指標に安全率があります。この安全率には、静止荷重に対するものと、加速度や屈曲荷重まで加えた総荷重に対するものとがあります。

ロープの用途によって必要な安全率は法規で定められています。下の表はワイヤーロープの用途別安全率を示したものです。

【資料】法規によるロープの用途別安全率

上記の表に掲載した法規を踏まえて、斜面上の作業機体を保持するためのワイヤーロープ1本あたりの安全率を以下の通りとします。

労働全衛生規則のつり足場ワイヤーロープ安全率が10倍以上であり、またゴンドラ構造規格のつり下げ用ワイヤーロープ安全率も10倍以上であることから、ワイヤーロープの安全率は負荷に対して10倍以上とする。

労働安全衛生規則の軌道装置(巻上索)ワイヤーロープの安全率が6倍以上であることから、ワイヤーロープの安全率は負荷に対して6倍以上とする。


B. ワイヤーロープの選定

ワイヤーロープに加わる張力は傾斜勾配に応じて変化するため、その現場勾配に応じた傾斜勾配を基本として算出し、必要な強度以上のワイヤーロープ径を使用するものとします。

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5. アンカー設置部の調査

アンカー設置箇所の調査のポイントは主に以下の3点です。

  1. ①斜面上部の樹木が健全に育成しているか
  2. ②樹木の根株の太さや密集の程度は良好か
  3. ③地盤は強固で、生立木が十分アンカーとして耐えられるか

  1. また、現場周辺に崩落跡や湧き水がある場合は、特に地質の耐力が弱くなっているので注意が必要です。そして、工事が始まってからのことも考慮して調査をしなければなりません。斜面上部に十分な広さがあり、パワーショベルやブルドーザを進入させることができるか、また進入した重機をアンカーの代わりに使用した場合でも、十分強固で安定した地盤であるかを調査します。
  2. 斜面に障害物があると、ワイヤーロープを斜面上部まで誘導するときに邪魔になる上に危険ですので、作業を行う斜面の状況も入念に調べます。

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6. アンカー方法の選択

アンカー方法の選択

作業機械を保持するためのアンカーには様々なものがありますが、信頼度と設置の難易度から考え、生立木アンカー、埋込みアンカー、コンクリートアンカー、ロックボルト使用アンカー、重量置換えアンカーの中から選択します。

  1. まず候補として挙がるのが生立木アンカーです。適切な場所に充分な強度の樹木があれば、最も経済的にアンカーが設置できます。
  2. 現場に適当な生立木がない場合もあります。アンカー設置予定地の土質が比較的やわらかくて掘削が容易であった場合は、埋込アンカーの施工を検討します。埋込みアンカーは、斜面上部のアンカー設置か所に丸太などを埋め込んで、それをアンカーとして使用するものです。
  3. 土質の硬軟や周辺の状況次第では、コンクリートアンカー、ロックボルトアンカーの施工が必要になる場合もあります。
  4. 重機をアンカーとして使用する重量置換アンカーという方法もあります。
  5. もちろん設置の方法によっては、かかる工費が変わってしまいますので、工事を行う現場の状況を正確に把握して、適切なアンカーを設置するということは、経済的で効率も良く、しかも安全な工事を行うために重要なことなのです。

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7. 生立木によるアンカー

生立木によるアンカーの選定手順

  1. まずは最も多く採用されている生立木を使用したアンカーについて紹介しましょう。まずアンカーに使用する生立木の選定を行います。斜面上部の推定崩落線より十分奥の位置にある生立木を使用します。
  2. 使用する生立木は、木の種類、根株の太さ、根張りの状態、周囲の地形、土壌等より選定します。選定された生立木は強度を確かめるための試験を行い、合格した生立木が工事に使われます。

 
左写真は生立木にスリングベルトを巻き、シャックルを用いてワイヤーロープを接続した状況です。こうしたアンカーを2か所設置してから、ロッククライミングマシーンとアンカーロックマシーンは作業を行います。 樹木選定の際は、右写真のように生立木の太さを計測して選定します。

  1. 伐採後の根株や、数本の根株をまとめて一体化して使用することもあります。           使用する際は生立木同様の試験を行い、充分な強度があることを確認してから使用します。

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8. 埋込みアンカー

現場に適当な生立木がない場合は、アンカー設置場所を掘削して丸太などを土中に埋設し、埋込みアンカーとして利用します。

埋込みアンカーの設置手順

  1. 丸太にアンカーワイヤーロープを巻き付けて固定します。斜面上部の推定崩落線より十分奥の安定した地盤を設置個所と選定し掘削。丸太を地中に埋め込めば完成です。
  2.  
    埋込アンカーの設置状況 

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10. ロックボルト使用アンカー

ロックボルト使用アンカーは、ロックボルト鋼材を岩盤に挿入してアンカーとするものです。設置する箇所の土質が岩盤の時のみ使用可能です。

 
ロックボルト使用アンカーの設置例

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11. 重量置換えアンカー

アンカーとして使用できる健全な生立木がない場合は、十分な重量を持った重機などをアンカーとして使用する方法があります。ただし、重機が停車できる充分なスペースと、その場所に移動するための通路が必要です。パワーショベルやブルドーザを斜面角部より十分離れて安定した地盤の上に停車させ、排土板やバケットをしっかり地盤に食い込ませて固定した上でアンカーとして使用します。

   
重機を使用した重量置換アンカーの設置状況 

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12. アンカー引張試験

選定・設置されたアンカーは、アンカーとして使用する前に引張試験機でテストを行い、充分な耐力・強度があるかを確認します。 例えば、生立木アンカーであれば地盤や根株に異常がないかを確認し、埋込アンカーならアンカー上部の地盤に異常がないか確認します。
こうした試験結果をもとにアンカー強度試験報告書を作成します。

   
写真は生立木アンカーの引張試験の様子です。充分な太さの樹木を選び、実際に工事中にかかる以上の負荷をかけて安全性を確かめます。

アンカーについて、もっと詳しく知りたい方はお気軽にお問合せください
Eメール  info@taisho-kk.com


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